和歌山小学生殺害事件の犯人が殺害を自供したという報道があった。同時に「話がわかっているのか、わかっていないのかわからない」という珍妙なコメントも出された。いわゆる「わけのわからない供述」というこの手の事件に特有のものだ。この犯人が「まともでない」ことはすでに明確なのだが「責任能力の有無についても慎重に調べを進めている」というこれもお決まりのコメントが出される。
これらの事実はこの犯人が「統合失調症」であることを如実に表しているものなのなのだが一般の方は「確かにまともじゃないけど統合失調症とは違うんじゃないの?」という疑問を持つだろう。7年前の私だったら同じように考えてしまったと思う。そこには「統合失調症に対する誤った既成概念が植えつけられている」という事実がある。
統合失調症は少し前まで「精神分裂病」と呼ばれていた病気である。そう言われればこの犯人は「違う」と誰もが思うだろう。精神分裂病のイメージは「キチガイ」である。おぞましい表情を浮かべて訳のわからない言動や行動を繰り返す「非人間」を思い浮かべる。差別用語だと言われて公には使われなくなったこの言葉のイメージが統合失調症であるならばこの犯人の様子とは全く違うことになる。
精神科医療における統合失調症の定義は一般の人が考えるものとは全く異なる。現在精神科医が診断の基準として最も使っているDSM-IVでの診断基準は以下のとおりである。
以下の2つ以上が各1か月以上(治療が成功した場合は短い)いつも存在する。
(1) 妄想
(2) 幻覚
(3) 解体した会話
(4) ひどく解体した行動(例:不適切な服装、頻繁に泣く)、又は、緊張病性の行動
(5) 陰性症状
※下線筆者
精神科医はこの基準に照らし合わせて統合失調症かどうかを診断し「責任能力の有無」を判定する。「これだけ?」と思う方も多いだろうがこれだけなのである。この基準で犯人を見ると(3)(4)(5)は当てはまるようにも思えるが下線を引いた条件をつけられるとどの程度があてはまるのか素人には正直わからない。統合失調症だと診断されれば「無罪」になってしまうので有罪か無罪かがこの基準を判定する精神科医にかかってくるのである。
あてはまるようにも思えるが当てはまらないようにも思える。それが何の罪もない小学生を惨殺した男の人生を左右するとしたらあなたはどちらを選ぶだろう。確実に判断できる材料がない以上「無罪」にする道は選ばない。精神科医も同じだ。
これが精神鑑定の「曖昧さ」なのである。犯人の人生を左右する重大なことなのにたったこれだけの基準を一人の人間が判断するのである。専門家なのだから・・・と考えるのは
浅はかである。精神科医の大半はマニュアル通り判断しマニュアル通りに薬を出すファーストフードの店員と変わらない程度の「専門家」なのだ。ファーストフードの店員もマニュアル通りのことが出来れば「専門家」なのである。
統合失調症には別の診断基準もある。ICD-10での診断基準は以下のとおりである。
症状基準 項目(1)の症状のうち1つ以上、項目(2)のうち2つ以上が1か月以上続くこと。
(1)
(a) 考想反響、考想吹入、考想奪取、考想伝播
(b) 他者から支配され、影響され、服従させられているという妄想で、身体、手足の動き、思考、行為、感覚に関連していること、及び妄想知覚
(c) 患者の行動を注釈し続ける幻声
(d) 不適切でまったくありえないような持続的妄想
(2)
(a) 1か月以上の持続的幻覚
(b) 言語新作、支離滅裂、的外れ会話
(c) 緊張病性の行動
(d) 陰性症状
※下線筆者
この基準ならどうだろう?先の基準に比べれば随分当てはまる可能性は高くなるがまだ不十分にも思える。では、この基準に漏れた人は統合失調症ではないのか?統合失調症という病名は付けられないことになるから「パーソナリティ障害」「境界性人格障害」「反応性幻覚障害」などという訳の解らない病名をつけて「まともではないけれど責任能力はある」という診断結果が下されるのだが統合失調症と何が違ってなぜ責任能力があるといえるのだろう?明確に答えられる精神科医はいない。
そもそも統合失調症とはどういう病気なのだろう?診断基準は示した通りだがどうしてこんな症状が現れるのだろう?
統合失調症は、ストレスなどの要因によって脳内情報伝達物質の不均衡が起き症状が引き起こされる、とされてきた。ところが最近の研究で前頭葉・側頭葉の萎縮が原因であり、その萎縮はNMDA受容体の機能低下及びそれによって引き起こされる神経細胞の「アポトーシス」(自殺現象)であること、ストレスに弱い遺伝特性が存在しその遺伝特性を持った人に発症することがわかっている。さらに適応障害、不安障害、引きこもり、不登校、家庭内暴力、発達障害、うつ症状などこれまで統合失調症とは全く別のものとされてきた症状が統合失調症の初期症状、誤診であることが新進の「精神科医」によって明らかにされている。これらの症状は前述の診断基準には合致しない。つまり診断基準は何の目安にもならないということになってしまう。
しかしこの新しい知識を持つ精神科医はごくわずかで、ほとんどは「目安にならない診断基準でしか判断できないレベル」でしかないのが現状なのである。
いいかげんな精神鑑定以外に診断する科学的根拠はないのだろうか?前頭葉・側頭葉の萎縮が前提であればMRIによってその事実が確認され、脳波検査によってそこから生ずる脳波が爬虫類化する事実、PETによって前頭葉の活動異常が観測される。しかしどういうわけかこのような事件ではこれらの検査は行われない。どうしてなのだろう?
息子の闘病記録を見て「これは統合失調症ではない、統合失調症と診断した精神科医がいるのならレベルが低い」と指摘した方がいる。自分がどれだけレベルの低い位置にいるかこの方は認識できないのだ。この程度の精神科医が人の人生を左右する薬を出しているのかと思うと恐ろしくてならない。
くれぐれも申し上げておくが犯人を病人として擁護することだけが目的ではない。次の犯罪を防ぐにはこの病気の正体を知らなければならないのだ。
統合失調症の正体については下記をご参照いただきたい。
https://toshioy001.wixsite.com/tougou