先日元SPEEDの上原多香子さんの夫TENNさんの自殺が報じられた。不眠に悩んでいたという証言もあるが、自殺する原因も前兆もなかったという不可解な事態はさまざまな憶測を呼んでいる。遺書も発表されているから自殺には間違いないだろうが、自殺するはずのない人間が何故自殺してしまったのだろう?

今回のことについて明確な事が言える情報は無いがこのような場合疑われるのは「睡眠薬」である。睡眠薬を使った自殺ではないだろう、と言われると思うが関連は全く別の所にある。

自治体が医療機関と手を組んで「不眠をなくすキャンペーン」を行うと自殺者が増加する、というとんでもないデータがある。これは「良心的な」精神科医野田正彰氏が「うつに非ず」(講談社)という著書の中で明らかにしているものだから「事実」である。ただし、野田氏は不眠が「うつ」と診断されて抗うつ薬が処方されていることが原因ではないか、抗うつ薬が脳内化学物質の混乱を起こして自殺を招くのでは、という精神科医らしい旧来の原因説を踏襲しているにすぎないが・・・。

不眠に対して処方されるのは通常の場合「睡眠薬」「睡眠導入剤」である。いくら何でも抗うつ薬を初めから処方するようなバカ精神科医がそれほどいるとは思えない。抗うつ薬が自殺を招くことは間違いないが実は睡眠薬も同じ働きによって「自殺を招く」のである。

睡眠薬、睡眠導入剤は主にベンゾジアゼピン系と呼ばれる「抗不安薬」が使われる。ほとんどの人は考えたこともないだろうがこの薬は興奮を鎮め安心をもたらす作用のある一種の「麻薬」である。もちろん麻薬であっても「効果」があるのであれば問題があるとは思えないし、海外の映画やドラマには「欠かせない」ものとして出てくる類のもので「自殺を招く」とは誰も考えることはないだろう。では、野田氏が示したデータはでたらめなのか?というとそうではない。

この薬が前頭葉のNMDA受容体に作用して統合失調症を起こすことがアルコール依存症研究と統合失調症のNMDA受容体仮説によって明らかになっている。この「副作用」は添付文書に明確に記載されているものの発症確率は1%以下とされている。この数字は「欧米」の「成人」の場合であって、日本人に多い可能性の高いストレスに弱い遺伝特性COMT遺伝子多型、ストレスによって適応障害・不安障害・うつ症状など「初期の統合失調症」を発症している状態、子どもや思春期による特性、などは考慮されていない。このような条件ではこの副作用の発症確率は極めて高くなることがNMDA受容体仮説によってすでに明らかになっている。

適応障害・不安障害・うつ症状・不登校・引きこもり・家庭内暴力などが初期の統合失調症の症状であることは多数の専門家が認めるところであり、「自殺」も統合失調症の一症状であることを指摘する専門家も多い。つまり、「不眠」はたいていの場合「ストレス」が原因だからすでに初期の統合失調症を発症していることになる。この症状はストレスに弱い遺伝特性COMT遺伝子多型に起こりやすい。この状態に睡眠薬・抗不安薬が処方されれば極めて高確率で睡眠・抗不安効果ではなく「統合失調症」が発症・悪化するということである。統合失調症が発症・悪化すると「正気を失う」。理性や人格が崩壊し欲求や欲望に対する歯止めが効かなくなる。「自分なんかいない方がいいのでは」と心のどこかで思っていた人は「そんなことをしたら家族が悲しむ」とか「死ぬのは怖い」というような冷静なことを考えることが出来なくなっていとも簡単に「死」を選んでしまうのである。自殺を「思った」ことはあってもそれを選ぶことをしなかった多くの人を死に向かわせる薬、それが睡眠薬・抗不安薬そして抗うつ薬である。

TENNさんが睡眠薬を服用していたかどうかは報道されていないから断定するつもりはないが指示通り飲む分には大した薬だと思う人もいないし、精神科でなくても処方してくれるので報道される理由にもならない可能性は高い。また、常用していたのならともかく一回飲んだ程度のものはなおさら報道の必要もあるとは普通は考えないだろう。しかしこの副作用はたった一度の服用でも起きる。

睡眠薬を服用していたのなら「不可解」な謎はなくなることは間違いない。妻は睡眠薬を服用した直後は様子がおかしくなり、平常時も精神的に不安定になって自殺未遂を繰り返した。睡眠薬をやめると安定し自殺未遂をも全く見られなくなった。それが何よりの証拠である。安定剤とも呼ばれる睡眠薬、抗不安薬はかえって精神を不安定にする薬なのだ。

抗不安薬を服用した息子に起きた副作用の記録と詳細な考察は下記を参照してほしい。

http://toshioy001.wix.com/tougou